田岡博之建築設計事務所 HIROYUKI TAOKA ARCHITECTS
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車椅子ユーザーの所作
今は何かに掴まりながら歩き、将来少しずつ車椅子を使った生活へ以降することを見越した家です。
ワゴンに掴まりながら歩き、常に手の届く範囲に掴まる場所がほしい。しかし車椅子の利用も考えると広さもほしい。狭くて広い。この矛盾する状態をどう家にできるのかが最初の問題でした。ある種の可変性やルーズさのようなものを携えた建築ができないだろうか。
家具と建築の間
改修の計画となった既存のマンションはSRC造でできた構造体で物理的にも心理的にもとても固く重い。できればいつもそばに置いてあるワゴンのような身体感覚までその建築を近づける、あるいは崩していけないかと考えました。そこで、家具の軽さと建築の重さの中間のような建築をイメージしていきました。
それは、置き場所を変えられる島のように点在する家具であったり、荒々しいスケルトンとなった躯体を和らげる仕上げになっていきました。
動線からできる居場所
どこにいても手の届く範囲にものがある。その距離感でできた場所は、大きなワンルームでもあり全てが動線からできているとも言えます。移動と滞在の行為が連続していて、ピットインのような居場所が点在しています。車椅子がなるべく行き止まりにならないように回遊性を持たせたり、少し広げた廊下は寄りかかれる手摺りも相まってどこでも居場所になれます。人の動く道の延長は、光や風の動線とも重なります。
決めきらないこと
個人住宅としての使い易い寸法は、ここでは特に厳密なものでした。けれども既存の躯体はそこまでの精度もなければ可変性もありません。動かない建築に合わせていくのではなく、合わないことをこの家のストーリーに乗せながら最後まで設計を描き続けていきました。
西側に設けられた採光と通風が確保できる既存の貴重なポツ窓は、パントリーとトイレで分かち合うように一見プランとはズレた場所にあります。リビングの置き家具が動く幅をもたせるように、床素材の切り替えはどことも揃ってはいません。そういったルーズさは、これから続く暮らしのおおらかさに繋がって行くと思っています。
竣工時で完成まで半分、テーブルやソファなどが置かれていくことでこの家はできていきます。
集まってつくる
この家で使用した素材や器具類は、施主がこれまでに縁があり関わったものが各所に盛り込まれています。それぞれのつくり手の顔まで浮かぶようなものばかりです。最初に建築から仕上げを決めるのではなく、この家づくりに関わる人の集積でできたような家でした。
家具を一緒に考え、製作管理して頂いた SOLO 神さんのblogを紹介させて頂きます。
連載コラム Table Chat #4「西早稲田のリノベーション」前編
連載コラム Table Chat #4「西早稲田のリノベーション」後編
設計監理:田岡博之建築設計事務所 田岡博之
内装施工:田工房 内田晃晴
家具 (キッチン・家具・手すりデザイン、製作管理進行 ):SOLO 神 梓
撮影:太田拓実