2022/01/11
武蔵野の風景に建つ
緑の多く残る武蔵野で親子二代に渡り受け継がれてきた二棟に並ぶアパート、その建て替え計画にあたり、二年をかけて敷地の環境を読み解いていった。解体前の半年は一室をお借りして事務所を移転し、空への広がりや土の庭の匂い、隣地間や道路の先に垣間見える往来や植樹林など、敷地を超えて広がる武蔵野の風景を感じながら計画を練った。
従前のアパートは単身向けであったが、数十年を経ての供給過多の状況、これからの多様な住まい方を考慮して、50m2程度4戸という単身から数人まで住み手の変化に長く応えることのできる構成を施主と共に検討し選択した。
配置計画はかつてのアパートと同じ分棟に近い形式とし、周囲の住宅の大きさに馴染ませながら環境をそのまま引き継いでいる。建物の外壁は、近隣の緑地内に残る昭和期の施設(浴恩館)を参考とし、草木の彩りが映え、季節や天候によって表情が変わる黒い小波のガルバリウムとしている。近くには「江戸の農家道」と呼ばれる直売所が並ぶ通りがあり、庭先で野菜を洗える水場とベンチをアプローチとなるこみちに設けた。こみちを奥へと進むと枝分かれするように各住戸の玄関に辿り着き、そのみちは玄関を通り抜けて庭へと続いている。
建蔽率から敷地の6割となる空地は建築以上に環境を左右する。総予算から先に外構費の予算を見込んでおいた。武蔵野古来の樹種に五感をたのしませてくれる種を織り交ぜつつ、土と石の地面をつくり、緑地としての環境形成を図っている。
敷地の中にも環境差があり特徴がある。4つの住戸は敷地内外に広がる武蔵野の風景の特徴と呼応するように、全てが異なるプランになっている。開口部はそれぞれの場所の環境に応じて設けられており、外観に並ぶ開口部の様相は周囲の環境を投影した姿でもある。住戸は間仕切りを使わず大きな間と小さな間の二つをメゾネット形式の階で分けることで部屋を構成している。各戸に設けたロフトは、リビングや庭を見下ろしたり、切り妻屋根に浮いたような床など、暮らしの幅を広げてくれる場所となる。
木造の集合住宅の懸念点となる住戸境がプランニングの段階で解消できるように接する面を極力少なくし、階段や水周り、吹抜けを介して居室が接することなく構成されている。界壁にはラワン合板を増張りし、遮音と経年変化の対応と共に現しにした柱梁との木表現のバランスも取っている。
A住戸は、玄関からキッチンを抜けて庭まで続く大きな土間を持ち、吹抜けが明るく陽を呼び込む。
B住戸は、庭に埋まるような視点の部屋から、富士山を臨む屋上テラスまで高さの変化に富んでいる。
C住戸は、庭木の梢と同じ2階レベルでリビングとテラスが繋がり、こみちに寄り添う家となっている。
D住戸は、こみちの一番奥にあり、玄関土間からリビングを抜けてデッキテラスまでがフラットに繋がる。
このどれもがお互いの環境を共有しながら、新たな武蔵野の風景をつくっている。
土地と人にゆったり流れる時間を繋ぐように、解体時に残しておいた既存の木製ガラス戸を各部屋で使い、庭石には施主の故郷の長野の石を配し、環境と記憶も継承していける建築となることを思いながら計画した。
「さくらこみち」という名前は施主の提案である。建物というものの名前ではなく玉川上水のさくら並木に繋がる「みち」という新しい場所ができたことを、最後に施主が自作でさくらの木彫看板をかけて形にして頂いた。
設計監理:田岡博之、高橋小百合
構造設計:mono 森永信行
施工:キューブワン・ハウジング 担当 小村幸治
造園:小林賢二アトリエ
写真:鈴木研一
2022/01/11
敷地は、南側に厳島神社のある厳島(宮島)を臨む瀬戸内海、北側に中国山地を背負った斜面地にあります。敷地の斜面地は、浅い海底の先にある厳島へと通じ、ひと繋がりの地形にあります。
敷地境界線で囲われた敷地を超えた、この瀬戸内の風景のスケールと一体になった家を目指しました。
この家は、斜面の等高線に平行に建ち、敷地前の道路に斜めに建ちます。
南北にも東西にもひな壇上になっている宅地の中で、この家は周囲とは少し違った角度の配置となります。隣家とは正面に向かい合わず、斜面地を自然と見下ろすように厳島へと視線が向けられます。道路からは、家の周囲にできた庭へと視線が抜け、その先の海の存在を道往くひとに知らせます。
敷地をゆったりと活かせるように、家は中央に配置し、基礎を小さくしながら庇を回りに大きく出すことで、半屋外的な家と庭の広がりをつくっています。家の回りにできた庭は敷地の先に延びる瀬戸内の風景へと繋がっていきます。
家の平面は民家の田の字プランの真ん中に土間と吹抜けを通したシンプルなつくりで、上下階がほぼ同じ構成です。土間と吹抜けは周囲にできた庭と同じくらいのサイズで家の中央を貫いています。
家は、厳島を舞台とした能舞台の客席のように、一階は平土間、二階は高土間という環境舞台のような場になっています。上下階それぞれに違った視点で瀬戸内海を臨む広間となっています。
屋根は中国山地の斜面を描くような勾配で架かっています。一階の外壁は地面との関係と手の届くメンテナンスができる木貼りとし、二階は庇の屋根仕上げと繋がる明るいガルバリウムとして、かつての造成前にあった地表面を現すような切り替えになっています。
内部は、モルタル金ゴテ、板間、すのこ、畳敷きなど、生活する居場所に応じて床の素材を設えています。それらの場所がすべて回りの風景との繋がりの中でできています。
等高線に沿う配置とシンプルな日本の木造架構でできたこの家は、住み手だけでなく周囲に対してもその大らかなスケール感と瀬戸内の環境を示してくれる存在になってくれると思っています。
設計監理:田岡博之
構造設計:mono 森永信行
施工:(有)アルフ 担当 横山宗宏
写真:太田拓実
2019/08/02
木造二階建て住宅をリノベーションにより「家開き」していこう、という出発点からこの計画は始まりました。
ここで暮らす家族とは、訪れた友人や近所付き合いまでを含めた人々と言ってもよいかもしれません。
家を開くということは、暮らしや環境を外に向けて開くと同時に、外の環境も中に引込んでいます。
一階の半分では、木の床がキッチンから道路まで点在しながら居場所を広げています。
ダイニングのフローリングがテラスとなり庭まで延び、庭先では塀を一部解体したベンチに居場所が繋がり、道端でくつろげる場所になります。
一階のもう半分は、玄関と呼ぶには大きな土間が外の道路から駐車場、アプローチへとひな壇を上がるように家の中まで入り込んでいます。
天井はそれに呼応するように、半分だけ解体して、既存の室内を広げています。
この家には家開きの用意として、浴室とは別にシャワー室を設け、リビングを宿泊室として使えるような障子建具も設えています。
階段室にはこの家で一つだけ曲面の壁を用いて、白い壁で上下階を繋いでいます。
二階ではきれいに組まれていた屋根の軸組を、北側の半分だけ天井を解体して現しています。
多人数の人が集まれる広間のような場所が、高さ方向にも家を広げています。
隠れていた端正な軸組は、どこか鳥居のような神妙な雰囲気をもつ表情で自然光や照明の陰影をつくっています。
南側の半分は、既存の天井と襖をそのまま残し、寝室として家の一番奥まった場所となっています。
外構では、既存の門扉や駐車ゲートを撤去すると、門柱や境界塀が遺跡のように残りました。
落ち着いた住宅街で、ほどよい敷居としてそれらは機能しています。
当初考えていた家開きは、既存の住宅が重ねて来たこの場所での歳月も相まって、家ひとつの話しではなく地域と繋がった開き方へとスタートを切っています。
設計監理:田岡博之、高橋小百合
構造設計:mono 森永信行
施工:八十堂 河口哲夫
写真:太田拓実